職業訓練所の思ひ出

id:phaさんのとこで職業訓練校についての記事があった。

実は会社を辞めてからのニート期間に僕は職業訓練の学校に通っていたことがありました。職業訓練ってかなり良い制度だと思うんだけど意外と実情が知られてないようなので勿体なく思っているので、ちょっと職業訓練について自分の体験を交えながら書いてみようかと思います。

で、かくいう僕も転職準備中という名目のニート期間に職業訓練校に通い、そこでJavaの勉強をしたのがプログラマになった(ホント直接の)きっかけでもあったので、自分の経験をつらつらと書き記しておきたいと思う。行くのを悩んでる人の検討材料にでもなれば幸い。

無謀な辞職から始まる

 というわけで職業訓練校にいったきっかけなわけだけど、これはもうものすごくストレートに「失業保険の給付期間を延長したい」がため。その前まで僕は某音楽雑誌の編集部にいたんですね。詳しくは書かないけど、これが超ワーキングプアな職場で、土日出勤当たり前・終電まで残業当たり前で年収200万行くかいかないか。体壊して入院した人がいても、復帰した当月から徹夜させて責任とらないようなものを間近で見てて。「お前ら自分の好きなことやってんだからいいだろ」を盾にリアル搾取の構図。
 「ファッキン! ノーフューチャー!」と編集長の机に全裸で仁王立ちして、雑誌にションベンぶっかけて辞職したのが3、4年前。これはだいたいリアルを2700倍くらいに水増ししてます。
 まあその前の話はどうでもよくて、とりあえずやってられないと辞めたものの、この人何も考えていません。とりあえず失業保険をもらうためにハローワークで仕事探すフリしながら、ちょっとだけあった貯金で自動車学校に通って免許取ったりしてます。「俺編集しからできないしなー」「でも編集もそんな得意ってわけでもないなー」「できるだけ人と会わなくてもいい仕事がいいなー」とかずっとくよくよしてる毎日。あ、ちなみに雇用保険もらうためには、月2回くらいハローワークに行った証明が必要なんですね。で、行って検索用のコンピュータで「へへーこんな仕事あるんだ」なんて船の仕事を検索しながら世界を股にかける船乗りを夢見たり。で30分くらいいると印鑑もらえる。
 で、素敵な未来航路を夢見ながら、気づくと雇用保険給付期間の3ヶ月が目の前に。わ、やべーっ! と気づいてどうしようか、というところで、知り合いからid:phaさんの記事にいもあるこの事実を聞きつけるわけで。

職業訓練を受けると失業保険がたくさんもらえるって本当?
たくさんもらえるというか、期間が長くなるよ。雇用保険を貰っている期間中に職業訓練に入学すると、本来の支給期間が終わっても、その訓練が終わるまで同じ月額が貰える。あと、自己都合退職の場合は雇用保険が給付されるまでに3ヶ月待たないといけないけど、職業訓練に通い始めるとその時点からすぐに貰えるようになるよ。

 まあとりあえず職業訓練校にでも通いながら考えるべ、とハローワークでパンフレットもらいにいくことに。僕は三鷹ハローワークいったわけですが、入り口あたりの「就職がんばろう!」系のパンフレットと一緒にその辺の情報のパンフ置いてます。あと、ビクビクしながら相談窓口にいけばいろいろ親切に教えてもらえました。
 で、とりあえずコース一覧みたいななのみて、「ITスキルコース」「ITコース」「Webプログラミングコース」「Webデザイナーコース」みたいなアブストラクトな名前のコースが並んでいて。IT系以外にも医療事務とかのコースがあったような気がする。「俺デザイナーって柄でもないよな」とか「ExcelとかWordを使いたいわけでもないしな」とかいう主に消極的な理由で、「Webプログラミングコース」に行ったのが運のツキ。いや、ツキじゃないですけど。
 で、これがJavaを基礎からやって、サーブレット/JSPでWebシステムを作れるようになろうというコース。この時点での僕のスキルは、「HTMLを打ったことがある」くらい。相談会みたいなのがあって、そこに足を運んで相談役の人に「HTML打てます!」と誇らしげにいったら、「いや、ここはそういうのを教えるとこじゃないので・・・」と「サーバ」とか「クライアント」とかの図を書いて丁寧に相談してくれました。まあほんと、そんなレベル。

受講までの微妙な日々

 実際にハローワークで受講申請してから、実際に通うまでにちょっといろいろ手続きが側あるんですね。まず、雇用・能力開発機構が主催する「就職セミナー」みたいなのに2回くらい行かなければならない。これがまあ、体のいい自己啓発セミナーみたいなもので、「働いてないやつはクズ」「お前ら早く就職しろ」「収入安くてもいいからとりあえず就職しろ」をオブラートに3重くらいくるんだ表現で一日聞かされる。で、「ちょっと横の人とコミュニケーションの練習してみましょう!」みたいに、横の人と組まされて「始めまして」「ええと、どちらにお住まいで?」みたいなぬるーい会話をやらされたり。まあ、僕みたいな根っからの引き篭もりにとっては苦痛この上ないわけですわ。僕みたいな根っからのパンクスにとっては、ファック糞ぬるい空気!みたいなもんですわ。とはいえまっとうな社会人の面もある僕なわけなので、なんとかこの辺は精神を完全に押し殺してスルー。ま、働かずに金をもらおうとするには多少の苦痛もやむをえないわけであります。実際、ものすごく疲れたけど。
 で、一番の難関、だとずっと思ってたのが、面接・筆記試験があるわけで。コースの定員が30名なので、これより多い場合は一応選別を行うことになり。もう内容は完全に覚えてないけど、何か数学とか国語の問題やらされた気がする。で、面接。ここで聞くのはだいたいひとつ。「何でこのコース受けようと思ったの?」ってことで。で、僕は完全に嘘八百並べて、「前職でWebシステムの運営に携わることになり、システムを作ることに興味をもった。ぜひスキルを身につけたい」みたいなことを言ったわけです。そんな事実はまったく無かったのにね。
 で、なんとか合格。っていうか後で面接側の人に聞いて知ったんだけど、実際は応募者数が実質30人前後で、落ちる人はいない、と。それでさえも珍しく、実際は20人くらいで、定員割れが多いみたいなので、一応形式的にやるだけみたい。まあ、あまりにも様子がおかしいとか、ぜんぜんやる気が無い人とかは落とすことがあるみたいだけど、まあそういう人でさえも受かってたので(後述)、一応現代社会に適応して生きている人は大丈夫でしょう。

受講が始まり

 でまあ、オリエンテーションみたいなのがあって、実際の受講が始まる。僕が通ったのは代々木にあった専門学校みたいなとこ。ちなみに、そこまでの交通費は、失業保険にプラスしてもらえる。しかも、なぜか「これで昼飯食えや」みたいな感じで一日500円くらいもらえる。勉強しに通ってるのに、失業保険+交通費+500円がもらえるなんてなんてすばらしい制度だ、と思った次第であります。(失業保険が出てない人にはどうなるか、は詳しくは知りません)
 部屋は30人が各々のデスクトップを前に授業を行うスタイル。始めはコンピュータの基礎知識から。二進法、十六進法の計算とか。RISCCISCとか、TCP/IPの基礎知識とか、サーバって何? とか、フォン・ノイマンという偉い人がいてね・・・みたいな話。まあ普通の大学の授業みたいな感じ。ほんと僕はコンピューターは使ってたけどその中身は何も知らなかったので、ほほーなんて思いながら聞いてた。
 で、2週間経ったあたりから、「やさしいJava」をテキストにJavaの授業を開始。
 テキストエディタ(そのときはTeraPad推奨)で書いて、javacでコンパイルして、Javaで実行、というのをひたすら繰り返す日々。先生は一通り解説をして、テキストの練習問題やって、先生オリジナルの練習問題だして、次の章いって・・・というループで授業が成り立っていた。まあほんとパズルを解くみたいな感じで僕はやってました。
 第一次変動が起きるのがこの時期。「Webプログラミングコース」っていうのを聞いてなんとなく「Webデザイナーになれるんじゃね?」「それってお洒落じゃね?」って勘違いしてた女の子とかが4,5人辞めていた。「あれ? あの人こないの?」「やりたいことと違うって言ってやめたんだって・・・」という会話が毎日繰り広げられておりました。
 あ、ちなみにこれは教室の会話を僕が勝手に聞いただけで、僕は面倒くさいので友達はつくらず、一言も会話せず通ってた。なんか、面倒じゃないっすか。昼飯いく? みたいなことをいちいち気を使ったりねぇ。まあみんな大人なのでそういう人に対して特に風当たりが強いわけでもなく、テキトーにやり過ごせる雰囲気でした。
 で、授業が進んでクラスの概念が出てきたあたりが第二次変動期。「まったく意味がわからない」「インターフェースとかって何の意味があるの?」みたいな感じでざわつく教室。この辺りでなんとなく、向いてるか向いてないかの差が出てきます。
 授業が遅延しだすのもこのころ。基本的に全員が理解することが授業の目的なので、先生はなんとか分からない人をフォローしようと必死。僕はよく分かってなかったけど、とりあえず先に進みたかったので、授業の進度を無視してテキストをずっと読み進めてました。で、先生も特にそのことに対しては何も言わず、「分からないとこがあったら聞いてね」という感じ。
 この辺りで分かったのは、結局一日コンピュータに向かい合う環境を与えられて、聞きたいときに聞ける先生がいて、という環境を与えられるのが職業訓練校なんだな、ということ。あくまで僕の観測範囲での認識なんでほかのコースがどうかは分からないけど、とりあえずインターネットでいろんなIT系の記事をみたり、それに沿ってプログラム打ち込んでみたり、ということを自由にできるのはとても役に立ちました。
 で、授業はいろいろ進んで、テキスト終わったらサーブレット/JSPでショッピングサイトを作ってみよう、という課題に取り組むことに。教室にOracleのDBが用意されてて、それに接続して商品一覧をとって、セッション作ってショッピングカートの内容入れて・・・というまあ非常によくある内容。
 この辺りで、完全に理解してる人とついていけてない人が明確に現れてくる。で、どうしてもできなくて「チッッキショー」と叫びながらディスプレイを蹴りだす人いたり(実話)、完全にあきらめてずっとアニメのページみてる人がいたり、なかなかにカオスな状況。先生も何とかそういう人をフォローしながら、無理やりに授業を締めくくっていた。
 で、これが3ヶ月。その間、1ヶ月に一回くらいに「就職セミナー」みたいな会があって、雇用・能力開発機構から派遣されてきた就職コンサルみたいな怪しげな人のレッスンみたいなのがあったりします。まあ、相変わらずぬるい就職しようぜ話なわけで、さすがに僕もなれてきて完全に「先生、僕、就職したいんです・・・・・」みたいな雰囲気を漂わせてクリアできるようになってます。
 あと、そこで教えてた先生は通ってた当時は伏せられてたけど、実は3ヶ月前に同じコースを受けた人だったりして。どおりで、「デザインパターンって何ですか?」「うーん、デザイナーのパターンでしょう」とか「サーブレットでRequestにAtrribute渡せないんですか?」「うーん、できないんじゃないっすかね」といろいろテキトーなこと吹き込まれたりしてました。まあそれも思い出。思い出!

OJTの1ヶ月

 そのコースには最後に1ヶ月OJTをやることになってて。実際の会社にいって、業務に携わりながら仕事を覚えよう的な。3ヶ月の最後に、8社くらいの人が来て、その会社すべて面接して、会社側から「この人でよろしく」みたいなオファーがきて、訓練所の人が割り振る感じ。そのための面接会みたいなのがあるんだけど、結構一日8社と面接するのって大変だった。「何で前の会社辞めたんですか」「労働時間が長くて」「プログラマーは労働時間が長くて当たり前。それではこの業界やっていけない。甘ったれてる」みたいなことを懇々と説教されたり。まあ、そりゃそうなんだろうけど、お前にいわれたくねーよ! っていうかお前誰だよとかいろいろ不満ためつつ、まあやりすごしたわけで。
 で、行った先では「社内ブログシステム制作」みたいなのを振られて、1ヶ月黙々とプログラム書いてた。そこに行ったのは4人だったんだけど、僕以外が全員脱落組で、何を振ってもやってくれない(しできない)ので、しょうがなくほとんど自分で作る羽目に。とはいえ、フレームワークの存在とかも知らないし。教えてくれる人もいない。JSPSQL書いたり、ページ遷移が全部if分でできてたり、いろいろ泣きたくなる感じではありましたが、まあ嘘っぱちシステムをなんとか作って終了。

そして就職

 で、結局そのOJT行った会社に就職しました。で、このOJTって、受け入れた会社には雇用・能力開発機構から補助金が出て、もしいい人がいたら就職させていい、っていう人材募集してる会社には非常に都合のいいシステムなんですね。後で知ったけど。まあ、一応顔は知ってたので、軽く面接・筆記試験があって、社長の顔を見ることもなく人事部長の一存で就職、ということに相成りました。ちなみに僕以外の人は一応面接したけど、まったく取る気はなかったみたい。
 まあその会社は派遣系SIerでいろいろブラックな会社ではあったんですが、そのことは割愛。機会があればまた書く。まあ、当時は「正社員になれた! 良かった!」みたいに素直に喜んでいたけど、その先には暗雲が立ち込めていた・・・。

まとめ

 いろいろ思い出しながら書いたら長くなっちゃったので、職業訓練校についてまとめとこう

  • プログラムをこれから学びたい人には、非常にいいシステムだよ
  • プログラムやってみたいなってもやもやしてる人にはオススメだよ
  • すぐに業務で役立つレベルになるのは無理だけど、きっかけにはなるよ
  • でも結局自分で勉強しようって気がないと、無駄になっちゃうかもよ
  • でもやっぱり向き不向きはあるよ。でも行ってみて考えてもいいかもしれない
  • 多少面倒なセミナーとかあることは覚悟しというた方がいいよ。でも実際に就職してからのことを考えると大したことないけど
  • 経験上、その後の就職とは切り離して考えた方がいいかも

とかそういう感じで。で、これが3年ちょっと前。いまいっぱしのプログラマーになれたかは、非常に微妙なとこだけど、何とか一応やってる。そんな感じであります。